Fivetranについて
- 飯塚 セレス
- 4月16日
- 読了時間: 17分
更新日:4月17日
はじめに
近年、企業におけるデータ活用の重要性が高まる中、「いかに速く・正確に・低コストでデータを統合するか」が大きな課題となっています。特に、SaaSやクラウドサービスの利用拡大により、社内外に散在するデータを一元的に管理・分析する基盤のニーズは急速に高まっています。このような背景の中で注目されているのが、データ統合自動化サービス「Fivetran」です。
▼本記事の目的
本記事では、Fivetranがどのような課題を解決し、どのような特長を持つのかを、データエンジニアリングやデータ分析に関心のある方向けに、以下の観点からわかりやすく解説します:
Fivetranの基本概要と特徴
対応データソース・ターゲット
他ツールとの比較や導入メリット
ユースケースや導入ステップ
モダンデータスタックとの関係
▼こんな方におすすめ
以下のような課題や関心を持つ方に役立つ内容です:
職種 | 想定する課題や関心 |
データエンジニア | 日々のデータ連携やETL / ELT処理に時間がかかっている/メンテナンス工数を減らしたい |
データアナリスト | 分析用データが整うまでのリードタイムが長く、機会損失が出ている |
データ利活用担当 | 多様なSaaSやDBからのデータ取得を効率化したいが、システム部門に頼りがち |
Fivetranの基本概要
Fivetranは、クラウドベースのデータ統合プラットフォームであり、各種データソースからDWH(データウェアハウス)などへのデータパイプライン構築を自動化するサービスです。ETLではなくELT(Extract → Load → Transform)の思想に基づいて設計されています。
▼サービスの基本的な役割
ステップ | 説明 |
① Extract(抽出) | SaaS(例:Salesforce、Google Ads)やDB(例:MySQL、PostgreSQL)からデータを定期的に自動で抽出 |
② Load(ロード) | 変換せずにそのまま、指定のクラウドDWH(例:BigQuery、Snowflake、Redshift)にロード |
③ Transform(変換) | DWH上でSQLを用いて必要な加工を行う(Fivetran自身では行わないが、dbtとの連携を想定) |
▼主な機能
ノーコード接続:GUIベースで主要なSaaS/DBと簡単に接続
スキーマ変更の自動追従:ソース側のカラム追加・削除・型変更を自動検出・反映
定期的な同期:1時間〜5分間隔でのデータ更新設定が可能(プランによる)
セキュアな転送:暗号化通信・アクセス制御の標準対応
マネージド型:サーバー管理やジョブ運用不要(SaaSとして完結)
▼主な連携先
分類 | 主な対象 |
SaaSアプリ | Salesforce、Google Analytics 4、Google Ads、Facebook Ads、Zendesk、HubSpot、NetSuiteなど |
データベース | MySQL、PostgreSQL、Oracle、SQL Server、MongoDBなど |
DWH(出力先) | BigQuery、Snowflake、Redshift、Databricks、Azure Synapseなど |
ファイル | CSV、Excel、Google Spreadsheets(定期抽出) |
※ 対応コネクタは500種類以上(公式サイトにて随時更新)
▼ELTツールとしての位置付け
Fivetranは「Extract/Load特化型」であり、以下のような思想で設計されています:
変換処理はDWH上で行うのが効率的
抽出・ロードを「完全自動」で提供し、メンテナンスを不要にする
SQLベースでの変換処理をdbtなどと分離管理することで開発の透明性を保つ
Fivetranの主な特徴
Fivetranは「運用負荷の極小化」「変更に強い仕組み」「豊富なコネクタ」などの点で、他のETL / ELTツールと一線を画しています。このセクションでは、Fivetranの主要な特徴をカテゴリ別に整理します。
▼特徴①:フルマネージド型データパイプライン
インフラ管理不要:サーバー構築・運用・バッチ制御不要(SaaSとして提供)
接続・同期設定はGUIで完結:数クリックで接続可能
障害検知・リトライ・監視も自動対応
※特に小規模〜中規模チームにとって、「データ連携のDevOps負荷削減」が最大のメリットとなります。
▼特徴②:スキーマ変更への自動対応(Schema Drift Handling)
スキーマ変更 | 対応内容 |
カラムの追加 | 自動で新カラムを認識し、対象テーブルに追加 |
カラム名の変更 | 新しいカラムとして扱う(変更履歴保持) |
カラム削除・非表示 | 明示的にマッピングを管理可能(デフォルトでは保持) |
※データソース側の改修頻度が高いSaaS系データにおいて、「壊れない連携」が実現されます。
▼特徴③:差分同期(Incremental Load)
初回はフルロード、それ以降は差分のみ取得(CDC等)
多くのソースでは変更日時ベースやトランザクションログベースの差分検出
データ量・API制限・レイテンシの最適化に寄与
※フルロードでAPI呼び出しを繰り返すツールとは異なり、コストと効率性の両立が可能です。
▼特徴④:豊富なコネクタ(公式対応)
常時メンテナンスされた500種以上のプリビルトコネクタ
ソース/ターゲット共に拡充中(最新は公式connector catalog参照)
一部はEnterpriseプラン限定、だが標準コネクタでも多様な業務領域をカバー
※SalesforceやGoogle Adsなどの複雑なSaaSにも対応しており、導入工数を最小化できます。
▼特徴⑤:高セキュリティ・高信頼性設計
通信:TLS暗号化、VPN/SSH接続対応
アクセス制御:RBAC対応、ログ監査機能
各種認証:OAuth 2.0、APIキー認証、証明書認証など
※企業内セキュリティポリシーに準拠した運用が可能。
▼特徴⑥:柔軟な変換設計(Transformは分離)
FivetranはTransform処理を担わない(非侵襲型)
SQLベースでdbt(Data Build Tool)と連携し、DWH上で変換を実施
開発と運用の責任分離が明確になる構成
※ELT思想のメリットを最大限活かした設計。再利用性やCI/CDにも強い。
▼特徴⑦:料金体系もシンプル
項目 | 内容 |
従量課金制 | 同期対象の「行数(Monthly Active Rows)」ベースで課金 |
サービス提供 | コネクタ数に制限なし(プランによって差分あり) |
フリートライアル | コネクタ数に制限なし(プランによって差分あり) |
※利用規模に応じて段階的に導入しやすい仕組み。
対応データソースと連携先
Fivetranは500種類以上の公式コネクタを提供しており、SaaS、データベース、ファイル、イベントログ、クラウドストレージなど多様なソースに対応しています。また、出力先としては主要なクラウドDWHやデータレイクに対応しています。
▼主なデータソースカテゴリと代表例
カテゴリ | 代表的な対応ソース | 用途の例 |
SaaSアプリケーション | Salesforce、Google Ads、Facebook Ads、HubSpot、Zendesk、NetSuite | マーケティング、営業、サポート、会計データなどの統合 |
Web・広告系API | Google Analytics 4、LinkedIn Ads、Twitter Ads、TikTok Ads、Klaviyo | ウェブトラフィック・広告施策の分析 |
データベース | MySQL、PostgreSQL、SQL Server、Oracle、MongoDB、MariaDB | 基幹システム・業務DBからのデータ抽出 |
ファイルベース | CSV、Excel、JSON、Google Sheets | 手動管理データやログファイルの取り込み |
イベントストリーム | Segment、Mixpanel、Amplitude | ユーザー行動・イベント分析 |
クラウドストレージ | Amazon S3、Google Cloud Storage、Azure Blob Storage | ログ・大量データの一括取込用 |
※SaaS系だけでなく、オンプレやクラウドDB、非構造データにも対応できる点が特長です。
▼主な連携先(データ出力先)
FivetranはELT思想のもと、データをそのまま以下のDWHとデータレイクにロード可能です。
タイプ | 対応プラットフォーム |
クラウドDWH | Google BigQuery, Snowflake, Amazon Redshift, Azure Synapse, Databricks SQL Warehouse |
データレイク | Amazon S3, Google Cloud Storage(※一部Connector限定) |
BI向け | Looker(dbt連携込み)、Tableau(直接ではなくDWH経由)など |
▼コネクタの種類と更新頻度
Standard Connector:公式サポートされ、ほぼ全プランで利用可能
Enterprise Connector:複雑なAPIや特殊な仕様に対応。Enterpriseプラン限定
Custom Connector:REST API経由で自作も可能(※別途開発が必要)
※コネクタはFivetranが日々アップデートしており、最新情報は公式Connector一覧で確認できます。
▼更新頻度とデータ同期の柔軟性
項目 | 内容 |
同期間隔 | プランにより5分〜1時間間隔で設定可能 |
初回同期 | フルロード、その後は差分同期 |
同期トリガー | 時間ベース(スケジューリング)/APIイベントトリガーなど |
ELTアプローチとFivetranの強み
Fivetranは、従来のETL(Extract → Transform → Load)ではなく、ELT(Extract → Load → Transform)という設計思想を採用しています。このアプローチがFivetranのサービスにどのような価値をもたらしているのかを解説します。
▼ETLとELTの違い
項目 | ETL | ELT |
処理順序 | 抽出 → 変換 → ロード | 抽出 → ロード → 変換 |
変換の実行場所 | ミドルウェア上 | データウェアハウス上 |
向いている用途 | データ量が少なく、定型的な処理が多いケース | 柔軟な変換や大規模データ処理が求められるケース |
主な課題 | 変換処理が複雑になるとパフォーマンス低下、保守困難 | 初期のストレージ量が多くなる可能性 |
※ELTは、近年のDWH(BigQuery, Snowflake など)の性能向上により主流になってきている手法です。
▼FivetranがELTを採用する理由とメリット
Fivetranは、データの抽出とロードを担当し、変換(Transform)はDWHやdbtなど他ツールで行うことを前提としています。
主なメリット:
DWHのパフォーマンスを活用
変換はDWH側のスケーラビリティに依存でき、処理性能が高い
処理の透明性と再現性
SQLベースで変換処理が記述されるため、レビューやバージョン管理が容易(特に dbt との連携により実現)
柔軟な変換ロジック設計
複雑なビジネスルールや集計処理も、DWH内でSQLとして定義可能
システム責任の分離
抽出・ロードはFivetran、変換はデータチームが制御。トラブルシューティングが明確になる
▼dbtとの連携(Transformのベストプラクティス)
Fivetranはdbt Cloud / dbt Coreとの統合に対応しており、以下のようなパイプライン構成が可能です:
SaaS・DB → Fivetran → BigQuery/Snowflake → dbt → BIツール(Looker, Tableau)
dbtのモデル定義をFivetran上からトリガー実行可能
スケジュール同期と連動した自動リフレッシュ処理が可能
データガバナンスや文書化、テストフレームワークも構築しやすい
※「変換はDWH上で」「管理はコードベースで」の思想を推進
▼こんな場面にELT + Fivetranは有効
シーン | 解説 |
複数SaaSやDBのデータを高速で統合したい | 各種コネクタとCDCにより、最小限の設定でデータ統合が可能 |
自社特有の変換ロジックを柔軟に定義したい | DWH + dbt によるSQL変換で自由度が高い |
ETLメンテナンス工数に悩んでいる | ELT+Fivetranにより、運用コストが大幅に削減される |
実際のユースケース
Fivetranは業種や部門を問わず、さまざまな企業においてSaaSやDBのデータをDWHに自動連携する基盤として活用されています。ここでは代表的なユースケースを、目的別に整理して紹介します。
▼ユースケース①:マーケティングデータの統合分析
概要 | 広告チャネル・解析ツールのデータを統合し、ROI分析や施策評価を高速化 |
連携例 | Google Ads、Facebook Ads、Google Analytics 4、HubSpot |
出力先 | BigQuery / Snowflake など |
効果 | 手動データ収集の削減、リアルタイムな広告効果の可視化、BIツールによる定期レポート作成 |
※マーケティング部門が週次・日次での分析を即時に実施可能に。
▼ユースケース②:SaaS業務データの統合ダッシュボード
概要 | CRM、会計、CSツールなど部門別SaaSを統合し、全社KPIを可視化 |
連携例 | Salesforce、Zendesk、NetSuite、Stripe |
出力先 | Redshift / Databricks SQL Warehouse など |
効果 | 部門ごとのサイロを解消し、横断的なKPIモニタリングと早期意思決定を実現 |
※経営層やオペレーション部門向けの全社統合ダッシュボードに有効。
▼ユースケース③:ECサイトの顧客行動・購買データ分析
概要 | 商品データ、購買履歴、Web行動ログなどを統合し、LTVや離脱率を分析 |
連携例 | Shopify、Google Analytics、MySQL(EC基盤) |
出力先 | BigQuery / Snowflake |
効果 | マーケ・商品・開発が共通データを活用し、意思決定の一元化とパーソナライズ改善を推進 |
※顧客単位の行動トラッキングやセグメント分析にも活用。
▼ユースケース④:プロダクトログの分析基盤構築
概要 | アプリ/サービスのログをDWHに蓄積し、ユーザー行動分析やA/Bテストに活用 |
連携例 | Segment、Mixpanel、MongoDB、Amplitude |
出力先 | Databricks / Redshift |
効果 | データチームがSQLで柔軟にクエリ・分析でき、アジャイル開発に貢献 |
※プロダクトマネージャーやUX担当による迅速な改善ループに直結。
▼業種別ユースケースまとめ
業種 | 主なデータソース | 活用内容 |
BtoB SaaS | Salesforce、HubSpot、NetSuite | 売上予測、商談分析、顧客セグメント |
小売・EC | Shopify、Google Ads、POS、GA4 | LTV・購買分析、キャンペーン評価 |
メディア | Google Ad Manager、YouTube、Segment | コンテンツ閲覧傾向、広告効果分析 |
金融・FinTech | MySQL、Salesforce、Stripe、Redshift | 顧客リスク評価、KPIモニタリング |
他ツール(Stitch, Airbyte, Informatica等)との比較
Fivetranは、ノーコードでのデータパイプライン構築を強みとするSaaS型ELTツールですが、同様の目的を持つツールとしてStitch、Airbyte、Informatica Cloud Data Integrationなどが存在します。このセクションでは、それぞれの特徴や使い分けの観点を整理します。
▼比較の観点
以下の観点で各ツールを比較します:
提供形態(SaaS / OSS / ハイブリッド)
コネクタ数・対応ソース
メンテナンス性・自動化度
カスタマイズ性
運用負荷
エンタープライズ対応(監査・セキュリティ等)
▼機能・特性の比較表(2025年4月時点)
ツール名 | 提供形態 | 主な特長 | コネクタ数 | カスタマイズ性 | 運用負荷 | 対象ユーザー層 |
Fivetran | フルSaaS | フルマネージド/自動同期/dbt連携 | 500以上 | 低(固定変換) | 非常に低 | ビジネスユーザー〜エンジニア |
Stitch (Talend) | SaaS | 軽量/中小向け/コネクタ限定あり | 約100 | 低 | 低 | 中小企業/データアナリスト |
Airbyte | OSS+Cloud | OSSとして無料利用可/コネクタ自作可 | 350以上 | 高(Pythonで拡張可) | 中〜高 | エンジニア/内製チーム |
Informatica CDI | SaaS、 ハイブリッド | ETL中心/GUI強力/旧来型からの移行に強み | 150以上 | 中(GUI+コード) | 中 | エンタープライズ向け |
▼Fivetranが優位なケース
運用コスト・メンテナンスを極力抑えたい
dbtやモダンDWHと統合してELT構成をとりたい
セキュリティ・監査・SLAが重視される企業利用
社内にELT実装の専門知見が少ない
▼他ツールが適しているケース
ツール | 適している状況 |
Stitch | データ量・連携数が少なく、SaaSで簡易に構築したい場合(費用重視) |
Airbyte | 内製で拡張したい/オンプレや特殊APIと連携したい/開発者が多い |
Informatica | 既存のETL基盤からの移行/GUIで複雑なETL処理が必要な場合/統合管理が必要な大規模企業 |
▼コスト面の補足
Fivetran:行ベースの従量課金(MAR:Monthly Active Rows)で可視性高いが、ボリューム次第で高額になる可能性も
Airbyte OSS:利用は無料だが、インフラ・運用は自前で整備が必要
Informatica / Stitch:コネクタ数やAPI制限によって段階的に価格が上がるプラン構成
導入のメリットと注意点
Fivetranは、特に「構築・運用コストの削減」と「迅速なデータ統合」を求める企業にとって有力な選択肢です。一方で、運用設計の自由度やコスト構造など、事前に把握すべき注意点も存在します。
▼導入メリット
観点 | 内容 |
初期構築が圧倒的に速い | ノーコードで主要コネクタを即接続。構築開始から数日で分析可能な状態に到達できるケースも多い。 |
運用コストが極小化できる | スケジューリング・スキーマ変化への自動追従、リトライなども自動化。運用チームの負担を大幅に削減。 |
信頼性の高いデータ転送 | 通信の暗号化、ロールベースのアクセス管理、監査ログなど、エンタープライズ水準のセキュリティに準拠。 |
dbt連携との親和性 | Fivetranでロード → dbtで変換、という構成がELTベストプラクティスとして定着しやすい。 |
SaaS連携の拡張性 | SalesforceやGoogle系など、API変更の多いサービスでも安定運用できる設計。 |
▼導入時の注意点
項目 | 説明 |
コスト構造に注意(MAR課金) | 読み込み対象の「アクティブ行数(Monthly Active Rows)」ベースで課金。大量データや高頻度更新では費用が増加しやすい。 |
カスタム変換が制限される | Fivetran自身は変換機能を持たないため、複雑なデータ整形はdbtやDWH側で実装する必要あり。 |
対応外のソースは自作が必要 | 非対応APIやオンプレDBはCustom ConnectorやReverse ETL連携で対応する必要があるが、やや手間がかかる。 |
ブラックボックス感 | 完全自動化ゆえに、内部処理の詳細が見えにくく、エラー調査に慣れが必要なケースも。 |
行単位での更新コントロールは不可 | 「このレコードだけ同期したい」「このIDは除外したい」といった細かい制御はFivetranの範囲外(DWH側で対応)。 |
▼Fivetranが特に効果を発揮するケース
SaaSやクラウドDBを多く使っており、それらを統合したい
開発リソースを割かずに、短期間でデータ分析基盤を立ち上げたい
スキーマ変更やAPI更新の頻度が高く、保守が煩雑になっている
dbtなどと組み合わせてELT構成を設計したい
Fivetranとモダンデータスタックの関係
モダンデータスタック(Modern Data Stack:MDS)は、近年のクラウドネイティブなデータ活用の流れに沿った技術群の総称であり、以下のようなレイヤーに分かれています。
Fivetranはこの中で「データ統合(Ingestion)レイヤー」を担い、SaaS・DB・ファイルなど多様なソースからDWHへのデータ連携を自動化する役割を果たしています。
▼モダンデータスタックの全体像とFivetranの位置づけ
データソース
SaaS、RDB、API、CSV、ウェブのログなど
データ統合(Ingestion)
Fivetran、Airbyte、Stitch
データウェアハウス(DWH)
BigQuery、Snowflake、Redshift、Databricksなど
データ変換・整形(Transform)
dbt(Data Build Tool)
ビジネスインテリジェンス(BI)
Looker、Tableau、Power BI、Looker Studioなど
▼各レイヤーでの役割整理
レイヤー | 主な役割 | 主なツール |
Ingestion(取り込み) | ソースからDWHへデータを抽出・ロード | Fivetran、Airbyte、Stitch |
DWH(保存・集約) | データを格納し、分析しやすい形に保持 | BigQuery、Snowflake、Redshift、Databricks |
Transform(整形) | データをクレンジング・モデリング・集計 | dbt(SQLベース) |
BI・可視化 | 分析者・経営層に向けたレポート・分析 | Looker、Tableau、Power BI、Looker Studio |
※Fivetranは「データの搬入専任」ツールとして、スキーマ変更・差分同期などを完全自動で処理し、他レイヤーとの明確な分業が可能になります。
▼Fivetranがモダンデータスタックに適している理由
観点 | 適している理由 |
DWHとの親和性 | ELT構成により、BigQueryやSnowflakeと高い統合性を持つ |
dbtとの連携 | dbt Cloud / Coreと公式に連携し、変換処理をトリガー可能 |
拡張性 | LookerやTableauと連携したBI基盤にもスムーズに接続 |
運用自動化 | スケジューリング、エラー検知、スキーマ追従が自動化されており、パイプライン管理が不要 |
▼導入パターン例
フェーズ | 使用ツール構成例 |
PoC・初期構築 | Fivetran → BigQuery → Looker |
分析強化期 | Fivetran → Snowflake → dbt → Tableau |
拡張期(多拠点・多事業部) | Fivetran + Airbyte(自作コネクタ) → Databricks → dbt Cloud + BI統合 |
実際の導入・運用のステップ
Fivetranの導入は、他のETL / ELTツールと比較して圧倒的にスピーディかつシンプルです。SaaS型のためインフラ準備が不要で、コネクタ接続とDWH設定だけでPoCが開始できます。
▼導入・運用フロー概要
ステップ | 概要 | ポイント |
① 要件整理 | 対象データソース/出力先DWH/更新頻度/ユーザー要件を整理 | BI要件やSQL変換の有無をこの段階で検討 |
② 接続環境の準備 | DWH(例:BigQueryやSnowflake)とアカウント、権限設定 | ソース側(SaaSやDB)の読み取り権限も確認 |
③ コネクタ設定(PoC) | Fivetranの管理画面からデータソースを選択して接続 | GUIベースでOAuth/APIキー等を入力 |
④ 同期&初期データロード | 初回フルロードが実行され、データがDWHに格納される | 時間がかかる場合があるのでスケジュール調整が必要 |
⑤ データ品質確認 | DWH内のスキーマ構成・データ件数・Null値などを確認 | SQLクエリやBIで初期チェックを実施 |
⑥ 運用設計・本番移行 | 更新間隔の調整、dbt連携、監視・アラート設定を整備 | チームや部門単位の権限管理もこのタイミングで設定 |
▼Fivetran導入時に必要な主な準備事項
分類 | 具体内容 |
ソース設定 | 接続元のアカウント、読み取り権限(例:SalesforceのAPIアクセス) |
DWH設定 | プロジェクト/スキーマ/書き込み権限(BigQuery、Snowflakeなど) |
組織的合意 | データ項目の取り扱い、変換責任の範囲(dbt or SQL) |
セキュリティ | VPN接続/IP制限/RBACの方針確認 |
▼実務的なTips
PoC期間は最短1〜2週間でも実施可能→ 初期はマーケ系SaaS(Google Adsなど)から始めると効果が見えやすい
データ増加に備えて:MAR(Monthly Active Rows)増加を前提とした予算計画を推奨
監視の自動化:Slack通知やメール通知を設定可能(同期失敗・データ欠損など)
▼dbtとの統合ステップ(Transform連携)
Fivetranはdbt(Cloud or Core)と統合可能で、以下のような運用が可能です:
ステップ | 内容 |
1. dbtプロジェクトの作成 | DWH上のSQL変換ロジックをdbtで定義 |
2. Fivetranからのトリガー設定 | Fivetran上で「Connector完了後にdbtモデルを自動実行」設定 |
3. テストとデプロイ | dbtでテスト/バージョン管理し、CI/CDにも対応可能 |
※抽出〜変換〜可視化までを一気通貫で自動化できます。
まとめと今後の展望
▼本記事の総括
Fivetranは、次世代型のデータ統合ツールとして、以下のような価値を提供します:
観点 | 概要 |
高速な立ち上げ | ノーコードで即時にデータ連携を開始でき、PoC〜本番導入までが短期間で完了可能 |
運用の自動化 | スケジューリング・スキーマ変更・差分同期・再試行などがすべて自動化され、保守工数を大幅に削減 |
モダンスタックとの親和性 | dbt・BigQuery・Snowflake・Lookerなどとの相性がよく、柔軟なデータ分析基盤を構築可能 |
エンタープライズ対応 | セキュリティ、SLA、監査機能が整っており、部門横断でのデータ活用にも対応可能 |
▼今後の展望
Fivetranおよびモダンデータスタックを取り巻く環境は、以下の方向に進化していくことが予想されます:
ノーコード × データ基盤の加速
エンジニア以外の職種でもデータ統合が進められる時代に
部門主導のデータ活用が現実的になり、「シチズンデータエンジニア」の台頭
変換(Transform)と連携の進化
dbtとの統合がより深まり、CI/CDやデータテストを組み込んだ品質管理が標準化
変換後のメタデータ連携・データリネージ(流れの可視化)にも注目
マルチクラウド・ハイブリッド対応の拡大
複数のクラウドやオンプレとのハイブリッド構成を支えるConnectorの拡充
オープンソースとの共存(例:Airbyteとの併用設計)も現実的な選択肢に
▼導入を検討する企業へのメッセージ
Fivetranは、「スピード・信頼性・スケーラビリティ」を重視したい企業にとって最適な選択肢です。ただし、全てのユースケースに万能というわけではなく、以下のような視点で検討を進めることを推奨します:
自社のデータ量・更新頻度におけるコスト試算(MAR課金)
変換処理を担うdbtなどの周辺ツールとの連携設計
データ活用部門の運用体制・スキルレベル
▼さいごに
データ活用はスピードと柔軟性の両立が求められる時代へと進化しています。Fivetranはその「第一歩」を劇的に簡略化してくれるツールです。導入に迷われている企業様には、まず1〜2ソースでのPoCから始めてみることを強くおすすめします。
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