DLT(Declarative Data Pipelines)、ELTとETLの比較
- 飯塚 セレス
- 4月14日
- 読了時間: 12分
はじめに
現代のビジネスにおいて、データの活用は競争力の源泉となっています。
しかし、どのようにデータを収集し、加工し、分析できる形に整えるかは、簡単な課題ではありません。その中核となるのが「データパイプライン」です。
▼データパイプラインとは?
異なるデータソースからデータを収集(Extract)し、
必要に応じて変換(Transform)を行い、
分析基盤やデータマートなどへ格納(Load)する一連の処理のこと
この処理をどのように設計・運用するかによって、次のような点に大きな違いが生じます:
システムの柔軟性・保守性
分析のスピードや正確性
運用コストやトラブル対応のしやすさ
▼本記事の目的
本記事では、データパイプラインの代表的な3つのアプローチである:
パターン名 | 特徴の要約 |
ETL(Extract → Transform → Load) | データベース投入前に変換処理を完了させる |
ELT(Extract → Load → Transform) | 先にDWHへ投入し、DWH上で変換処理を行う |
DLT(Declarative Data Pipelines) | パイプライン処理を宣言的に定義し、自動化・再利用性を高めたアプローチ |
これらを比較・整理し、実務上どのように使い分けるべきかの指針を提供することを目的としています。
用語と概念の整理:ETL・ELT・DLTとは
データパイプラインを理解するうえで、まず以下3つのモデルの概念を明確に整理しておくことが重要です。
▼各モデルの定義と処理順
モデル | 処理順序 | 特徴 |
ETL | Extract → Transform → Load | 変換処理をDWH投入前に完了。従来型の構成。 |
ELT | Extract → Load → Transform | 先にDWHへ投入し、DWH側で変換。クラウドDWH時代に普及。 |
DLT | 抽象的に「変換したい結果」を宣言 → 実行エンジンが処理順を最適化 | データ変換ロジックを宣言的に記述。DatabricksのDLTなどが代表例。 |
▼ETL(Extract → Transform → Load)
従来型のアーキテクチャで一般的
データウェアハウスやDBに投入する前に変換処理を行う
ETLツール(例:Informatica、Talend、AWS Glue)などが代表的
向いているケース:
ソースデータが前処理を強く要求する
DWHの処理能力が限定的な場合
▼ELT(Extract → Load → Transform)
クラウドDWH(BigQuery、Snowflakeなど)の台頭で広がった
大量データを先に格納し、後からDWH内で変換する手法
dbt(data build tool)などが代表的
向いているケース:
ストレージが安価でスケーラブルなDWHを利用している
変換処理をSQLで書ける体制がある
▼DLT(Declarative Data Pipelines)
データ処理を「どのように」ではなく「何をしたいか」で記述
処理の依存関係や再実行制御を自動化する仕組み
代表例:Databricks DLT(Delta Live Tables)
向いているケース:
再利用性・保守性を重視するプロジェクト
複雑な依存関係を持つデータ処理の自動化が必要
▼用語のまとめ表
用語 | 意味 | 主な用途・背景 |
Extract | データの抽出(ソース:DB、APIなど) | 全モデル共通 |
Transform | データの整形・加工・変換 | ETLではETLツール内、ELT/DLTではDWHやエンジン上 |
Load | DWHや分析基盤へのデータ投入 | ETLでは最後、ELTでは早期に実施 |
Declarative | 「何をしたいか」を記述 | DLTの根幹思想 |
各パイプラインの構成と処理フローの比較
ETL、ELT、DLTは、どこで変換(Transform)を行うかや、処理の記述方法・自動化レベルに違いがあります。ここでは、処理フローやアーキテクチャ構成の観点から比較します。
▼パイプライン構成の違い(処理ステップと場所)
項目 | ETL | ELT | DLT |
処理順 | Extract → Transform → Load | Extract → Load → Transform | 論理的な変換目的の宣言 → 実行エンジンが順序を制御 |
変換処理の場所 | ETLツールやETLサーバー | DWH上(SQLなど) | 実行エンジン(例:Databricks DLT) |
典型的な構成要素 | ETLツール + DWH | データレイク or DWH + SQL処理エンジン(dbtなど) | DLTエンジン(Delta Live Tables)+ Delta Lake |
処理制御の粒度 | 手続き型 | SQLロジックベース | 宣言型 |
ジョブ依存関係の管理 | 明示的な定義が必要 | dbtでの依存関係記述など | 自動的に解決(宣言順に依存グラフ構築) |
▼処理フロー例:図解の代わりにステップで比較
ETL:
DB/APIなどからデータを抽出(Extract)
ETLツール内で変換(Transform)
データクレンジング、結合、集計など
DWHへロード(Load)
ELT:
抽出(Extract)→ DWHへそのまま格納(Load)
SQLで変換処理をDWH上で実施(Transform)
BigQueryやSnowflake、Redshift等で分析可能な形式に整形
DLT:
Python/SQLで「このようなテーブルを作りたい」と定義(宣言)
DLTエンジンが依存関係を解決し、必要な順序で自動的に実行
処理ログや監視も含めたパイプライン全体を管理対象に
▼特徴的な観点別の比較
観点 | ETL | ELT | DLT |
リアルタイム処理との相性 | △(バッチ処理が主) | ○(DWH次第) | ◎(ストリーミング処理対応も可) |
スキル要件 | ETL専用ツール、GUI操作など | SQL中心、分析基盤の理解 | SQL/Python + データエンジニアリング知識 |
メンテナンス性 | 手作業での調整多い | モジュール化次第で良好 | 自動化・再利用性に優れる |
▼ポイント
ETL:処理順制御しやすいが、運用負荷が高め
ELT:DWHの力を活かせるが、設計力が問われる
DLT:宣言的で自動化しやすく、今後の主流候補
実運用におけるメリット・デメリット比較
ETL・ELT・DLTは、データの抽出から変換・格納までの流れを担う点では共通していますが、運用フェーズでの扱いやすさ・柔軟性・拡張性に大きな違いがあります。
以下の観点で比較します:
開発スピード
スケーラビリティ
処理性能
再利用性・保守性
可観測性(オブザーバビリティ)
運用・障害対応のしやすさ
▼各方式のメリット・デメリット比較表
比較観点 | ETL | ELT | DLT |
開発スピード | GUIツールが補助するが、複雑な設計になることも多い | SQL中心でシンプル。スキーマ管理が課題になる場合あり | 宣言的に定義でき、再利用・変更も容易 |
スケーラビリティ | ETLサーバーのスケールが必要 | クラウドDWHのスケーラビリティを活用 | Databricksなどの分散実行エンジン上で処理 |
処理性能 | 処理ロジックを最適化しやすい | クラウドDWHの並列処理で高速化 | Delta Lakeとの統合で効率的な実行 |
保守性・再利用性 | 手続き型で属人化しやすい | モジュール化やテンプレートで対応可 | 依存関係の自動管理・宣言的ロジックで保守性高 |
オブザーバビリティ | ログ取得や監視設定がツール依存 | DWHやdbtの仕組みを使えば可視化可能 | エラー監視・再実行・依存関係管理が一体化 |
障害対応のしやすさ | 途中失敗時のリカバリが煩雑 | SQL単位で再実行しやすい | 自動リトライ・リカバリ機構あり(例:DLTの状態管理) |
▼実運用での選定ポイント
状況 | 推奨方式 | 理由 |
データ品質を担保しながら精緻な前処理を行いたい | ETL | ロジック制御の柔軟性と前処理粒度 |
クラウドDWHを活用した柔軟な分析基盤を構築したい | ELT | DWHの拡張性・SQL資産の活用 |
頻繁なロジック変更やデータパイプラインの自動管理を行いたい | DLT | 宣言的記述と依存制御の自動化が有効 |
▼ポイント
ETLは制御性に優れるが、保守・拡張性に課題
ELTはスケーラビリティに強く、SQL資産を活かせる
DLTは自動化と保守性に優れ、モダンなデータ基盤での有力な選択肢
DLT(Declarative Data Pipelines)の特徴と利点
DLT(Declarative Data Pipelines)は、近年注目されている宣言的アプローチのデータパイプライン構築手法です。特にDatabricksが提供する Delta Live Tables(DLT) が代表的で、従来のETL/ELTとは異なる設計思想を持っています。
▼DLTの基本的な特徴
項目 | 内容 |
宣言的(Declarative) | 「どう処理するか」ではなく、「何を実現したいか」を定義する方式(SQLやPythonで記述) |
依存関係の自動管理 | 複数のテーブル間の依存関係を明示しなくても、DLTが自動的にグラフを構築・順序を制御 |
再実行制御・状態管理 | チェックポイントとキャッシュによって、再実行時の差分検知や自動リカバリが可能 |
開発・保守の効率化 | コードベースの一貫性により、保守性と再利用性が向上 |
ストリーミングとバッチの統合 | 同一の構文でバッチとストリーミング処理を定義できる(構築・運用負荷を大幅に軽減) |
▼従来のETL/ELTと比較したDLTの優位性
比較軸 | 従来のETL/ELT | DLT |
処理記述方式 | 手続き的 | 宣言的 |
エラーハンドリング | 手動設定・個別対応が必要 | 自動リトライ・ステータス追跡が標準機能 |
依存関係管理 | 手作業でフロー制御 | DLTが自動でDAG(有向グラフ)を構築 |
モニタリング | 外部ツールに依存するケースが多い | DLTダッシュボードで統合的に監視・管理 |
バッチ/ストリーミングの統合 | 別々に実装・運用する必要がある | 同じ記述で切り替え可能(@dlt.tableなど) |
▼DLTが向いているシーン
複雑な依存関係を持つパイプラインを扱う場合
データパイプラインの信頼性・再現性を高めたい場合
データ量の増加・スキーマ変更に柔軟に対応したい場合
データガバナンスや監査ログの自動生成が必要な場合
▼補足:DLT ≠ dbt
項目 | DLT | dbt |
エンジン | Spark / Delta Lake | DWH(BigQuery, Snowflakeなど) |
実行基盤 | Databricks上のマネージドパイプライン | DWHのSQL実行とJinjaテンプレート |
コード管理 | Python / SQL | SQL + Jinja |
共通点 | 宣言的パイプラインの構築、依存グラフ構築、自動ドキュメント化など | 左と同様 |
適用ユースケース別の使い分け指針
ETL・ELT・DLTはそれぞれ異なる強みを持ちますが、利用する組織の規模、データ量、スキルセット、要件によって向き・不向きがあります。
▼適用ユースケースと推奨方式の早見表
ユースケース | 推奨方式 | 理由・補足 |
小規模システムでの定型ETL処理 | ETL | ツールベースで直感的に構築可能。前処理が重視される環境に向く。 |
BIレポート用途で、分析チームがSQLを活用する環境 | ELT | DWHへのLoad後、SQLで柔軟に変換処理できる。SQL資産を活用可能。 |
ストリーミング処理やジョブ依存制御が求められる | DLT | バッチ/ストリーミング対応、DAG構築、再実行制御などが自動で行える。 |
データソースが多数あり、依存関係が複雑 | DLT | 宣言的に定義するだけで依存関係が明示され、パイプライン全体を構成可能。 |
変換処理に高度な前処理ロジック(Python等)を要する | ETL または DLT | ETL:ETLツールで柔軟に処理可能/DLT:SparkベースでPython処理も記述可能 |
スケーラブルなクラウド基盤を前提としたデータ基盤 | ELT または DLT | クラウドDWHやDatabricks環境を前提とした構成に向く |
分析チームとデータエンジニアの協業が前提 | ELT(+dbt) | dbtによるモジュール管理・SQLベースの開発が可能。非エンジニアにも親和性あり |
▼判断時に確認すべき主な観点
観点 | 質問例 | 影響 |
データ量 | 毎日TB級か?都度数十MBか? | 大量ならELTまたはDLT(DWHやSparkのスケール) |
処理のリアルタイム性 | 秒・分単位で更新が必要? | ストリーミング対応可能なDLTが有力 |
技術スタック | SQLベース?Pythonも使いたい? | SQL中心ならELT/dbt、柔軟性重視ならDLT |
運用体制 | DevOpsやCI/CDとの連携は? | 宣言型で再現性が高いDLTがメンテナンス向き |
可観測性要件 | ジョブログやデータ品質チェックが必要? | DLTはログ・メタデータ・監視の自動統合が可能 |
▼使い分けの補足
ETL → ELT → DLT の順に、構造はシンプル→スケーラブル→自動化・抽象化と進化している
dbtとDLTの併用も選択肢になる場合あり(例:dbtでSQLモデル管理、DLTで実行制御)
「技術力×スピード×運用コスト」のバランスで選定するのが現実的
代表的なツール紹介
ETL・ELT・DLTを実現するには、それぞれのアプローチに合ったツールの選定が重要です。ここでは、現場でよく使われている主要ツールをカテゴリ別に紹介します。
▼ETL系ツール
ツール名 | 特徴 | 向いている用途 |
Informatica PowerCenter | 老舗のエンタープライズ向けETL。GUIでデータフローを定義 | 大企業の複雑なバッチETL処理 |
Talend | オープンソースETLツール。GUIベースで柔軟性あり | ミドル規模〜大規模ETL処理に対応可能 |
AWS Glue | サーバレスETL。PySparkベースでAWSと統合 | AWS環境でのデータ連携、カスタムETL |
Apache Nifi | フロー指向のデータ処理GUI。リアルタイムETLに強み | IoTやログ系のストリーミングETL |
▼ELT系ツール
ツール名 | 特徴 | 向いている用途 |
dbt | SQLベースのELTロジックを管理・実行・ドキュメント化 | 分析チーム主導のELT処理。BigQueryやSnowflakeと親和性高 |
BigQuery | GoogleのDWH。ELT向きでスケーラビリティに優れる | SQLベースでの大量データ変換・集計 |
Snowflake | マルチクラウド対応DWH。セミ構造化データも処理可 | ストレージとコンピュートの分離による柔軟な変換処理 |
Azure Synapse Analytics | Microsoft系DWH。Power BIと連携しやすい | Azure環境でのELT基盤に最適 |
▼DLT系ツール
ツール名 | 特徴 | 向いている用途 |
Databricks Delta Live Tables (DLT) | Sparkベースの宣言的パイプライン。依存関係の自動解決、監視UI付き | バッチ/ストリーミング両対応。大規模なデータ変換に強い |
Apache Airflow(※補足的) | ワークフロー管理ツール。DLTと組み合わせて全体統制に使用 | データパイプラインのスケジューリングと統合運用 |
Prefect(DLT的記述を意識) | Pythonで宣言的にパイプラインを記述。モダンETLツールとして注目 | ML・データ基盤の柔軟な管理。コードファーストの現場向け |
▼他の補助ツール・共通基盤
種別 | ツール | 補足 |
データ転送・連携 | Fivetran、Stitch | ノーコードで各種SaaSやDBと接続してExtractとLoadを担う |
データ品質監視 | Great Expectations | DLTやdbtと連携してデータのバリデーションを自動化 |
可視化/監視 | Datadog、Databricks UI、dbt Cloud | パイプラインの状況監視とメタデータ管理 |
▼選定時のチェックポイント
観点 | 質問 | 影響 |
DWHとの相性 | 対応しているDWH・クラウド基盤は? | Snowflake / BigQuery / Databricksなど |
言語・開発スタイル | SQLか?Pythonか?GUIベースか? | スキルセットや開発チーム体制に影響 |
デプロイとCI/CD連携 | Git管理やCI対応は可能か? | dbtやDLTはコードベースでのCI/CDに適応しやすい |
まとめと今後の展望
▼今後のトレンド展望
以下は、データパイプライン領域で今後注目すべきキーワードです。
宣言的パイプラインの普及
再利用性や可観測性、CI/CDとの親和性を理由に、DLTやdbtのような宣言的手法の導入が進行
データチームが「インフラ寄り」から「アプリケーションライクな開発」へ移行中
ストリーミングとバッチの統合
従来は別々だった「リアルタイム処理」と「日次バッチ処理」が統合されつつある(例:Databricks DLT)
データ品質・メタデータ管理の高度化
データカタログ・検証・リネージュ(系統管理)ツールの統合が今後の焦点
Databricks Unity Catalog や Great Expectations などの台頭
ノーコード/ローコードツールとの共存
エンジニア不在でもデータ活用できる環境が求められ、GUIツールやSaaS連携(Fivetranなど)の役割も重要に
▼データエンジニアとしてのキャリア展望
スキル領域 | 推奨される習得内容 |
SQL / dbt | 分析駆動のELTパイプライン設計とテスト手法 |
DLT / Spark | 宣言的パイプラインの構築とストリーミング処理への対応 |
CI/CD・IaC | パイプラインのコード管理、再現性の担保、Terraformなどの連携 |
データ品質管理 | データバリデーション/監査ログ/メタデータ管理の自動化ノウハウ |
▼最後に
データパイプラインは今や「作るだけ」から「継続的に育て、改善する対象」へと進化しています。ETLやELTの基本を押さえたうえで、DLTのような最新アプローチを理解することは、モダンなデータ活用基盤を支えるエンジニアにとって不可欠なスキルです。